聞き手:2017年1月ついに「ドールズタウン」の再演が決定しました。この再演について十二代目結城孫三郎さんにいろいろお伺いいたします。よろしくお願いいたします。
まず、最初に、再演しようと思われたきっかけは何だったのでしょうか?
孫三郎:1995年「水の国ガリバー」という作品を鄭さんの脚本で上演しました。これがとても面白かったので、続編を創ろうということで「ドールズタウン」が生まれました。これも又、とても面白かったので、ぜひ再演しようと約束したのですがお互いのスケジュールが合わずにそのままに。ところが昨年、鄭さんが流山児事務所で演出をして、私がゲストで出演した時、具体的に話しが纏まりました。本当は終戦記念日にやりたかったのですが、スケジュールの都合で2017年1月になりました。
聞き手:鄭さんの出会いと最初の印象を教えてください。
孫三郎:始めての出会いは新宿の仮説テントです。しかしその前に実は私は知らなかったのですが、鄭さんは結城座にいらしていたんだそうです。結城座が吉祥寺スタジオで芝居をやっていた頃、スタッフも出演者もそろって食事をする習慣があったんです、結城座の食堂で。「マクベス」の時らしいのですが、その時、鄭さんは照明のスタッフとして来ていて、一緒に食事をしたそうです。
聞き手:エー、照明さんですか?
孫三郎:そう、その後岸田戯曲賞をおとりになり、映画「月はどっちに出ている」などを拝見してぜひ描いて欲しいと、今度は作家としてお会いすることになりました。
聞き手:「水の国ガリバー」が最初の共同作業ですね。確かタイトルどおり、水を使った舞台装置でしたね。
孫三郎:実は人形と水は相性が悪いんです。当然人形が濡れると困るわけですから、でもやれないとは言いたくなかったので、挑戦してみようと思ったんです。
この劇にはひょっとことおかめが脇で出て来ます。この、ひょっとこが女房みたいなおかめを連れて、細々と旅芸人をやっているという話が「ドールズタウン」の発端です。
聞き手:鄭さんはよく稽古場にいらしていたそうですね。
孫三郎:毎日いらしていましたよ。描きっぱなしは出来ない方なので、稽古を見ながらその場で台本を書き直していましたね。
聞き手:その時の印象は?
孫三郎:表面はやわらかい人だと感じましたが、実は内面はとても芯の強い人なんだろうなと、ダメだしはしつこいくらいされましたから。(笑い)
聞き手:ひょっとこは旅芸人で人形遣いですよね。人形遣いが人形遣いを遣るというのはどんな感じですか?
孫三郎:わりと人形遣いの役は多いですよ。
聞き手:「ドールズタウン」の初演ではひょっとこ、足の悪い河島、魚の佐藤昭二の3役でしたが。
孫三郎:3役は少ないほうです、多い時は8~9役も遣りますよ。
この劇では足の不自由な河島の役が一番難しかったですね。つい、習慣的に糸を引いてしまい不自由でなくなってしまう、その習慣性を抑えるのが大変でした。佐藤昭二も魚だから大変だった。
聞き手:魚だから?
孫三郎:仮想現実と現実を行ったり来たりする架け橋的な存在なんですが、魚のくせに一番人間的なことを言ったり。
聞き手:魚の佐藤昭二のおかげ(?)でその後、動物の役で出演依頼がふえたとか。
孫三郎:ええ、しばらく猫、子猫といった役が続きましたね。
聞き手:先ほど、多い時は8役、9役とおやりになると仰いましたが、私たちにはちょっと想像できないのですが、どうしたらそんなことができるのですか?
孫三郎:人形を持つと役の切り替えができます。その造形によって変わることが出来るのです。
聞き手:演技の話が出てきたのでお伺いしますが、十二代目の芸風は?
孫三郎:派手な芸が得意です。私は若い時から、役についてこうしようとか目標を持って演技したことがありません。状況に合わせて創造に任せます。ぐちゃぐちゃがいいですね。最近、鄭さんから「孫さん、そろそろ枯れた役も遣って下さい」といわれたことがありますが、中々渋くはなれませんね。私自身、よぼよぼしたくないので。
聞き手:十分お若いです。では、人形について教えて下さい。糸は何本あるのですか?
孫三郎:人形の大きさ、造形によっても違いますが基本的には17~18本です。
聞き手:糸は切れないのですか?きれた場合はどうするのですか?
孫三郎:切れる場合もありますが、大抵はゆるむことの方が多いですね。そうした時は演技しながら直します。糸がゆるむ、足が取れる、人形が壊れるなど舞台では何が起こるか分かりません。それをいかにクリアして舞台を続けるかが人形遣いの試されるところですね。
聞き手:最後にHPに立ち寄ってくださっている方々へのメッセージをお願いします。
孫三郎:この作品のテーマは戦争です。「水の国ガリバー」は東南アジアの小さな国「ドールズタウン」は日本のとある町、ともに一般の人々が真っ先に死んでしまいます。その残酷さを伝えなくてはならない。僕は2歳の時、空襲にあいました。入院中だったのですが、祖父がベッドの下で僕に覆いかぶさって守ってくれたのを覚えています。兄は疎開させられました。この記憶は否応なしに戦争の実感です、この実感を伝えたい。
孫三郎:鄭さんの台本には、戦争の残酷さ、悲惨さが描かれていると同時に、あきらめとはちがう「逃げたって仕様がない」って庶民の強さと、どんな戦時下にあっても、笑いがあり、ちょっとした恋が芽生えたりする、そんな所がね、共感出来るんです。
聞き手:再演「ドールズタウン」はどんな舞台になるのでしょうか?
孫三郎:多分、初演とは全く違ったものになると思います。“十年あい経ち候”の孫三郎を観て貰いたいと思っています。
聞き手:ありがとうございました。